石鎚古道をゆく(3)

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とき 2019年8月13日(火)

石鎚古道をゆく(3)

☆旧大保木(おおふき)小学校から石鎚ふれあいの里まで☆

大保木小学校の満開の桜の古木に見送られ、当時の通学路でもあったであろう今は竹や杉の林のなかの石鎚古道を更に山頂を目指します。小川のせせらぎにはアヤメ科のシャガが花を開き、道沿いには茶の木がそこかしこに自生しています。

と、視界は急に開け手入れされた段々畑が続き、今もこの山里に暮らす人々の息吹を伝えます。程なく東宮(とうぐう)神社の注連石が右の斜面に見えてきます。見上げる石段の踊り場には幟がはためいています。聴くところ明日がこの氏神様の春祭とのこと。なんでも、創建は延文2年(1357)にまでさかのぼり、現在地には明治11年に遷座されたとのこと。

 

第3桧(ひのき)王子社を発ってから15分、石鎚山真言宗総本山「極楽寺」の境内に入ります。こちらの本堂(金堂)は近年改築され、平安時代の建築様式で建立され、おだやかな屋根の流れや躍動的な棟のライン、優雅な軒などが特徴です。銅板で葺かれたその屋根は、春の陽射しを気持ちよく受けているようです。多分、山間から見上げる空はこの辺が一番広く、川向こうに望む桜の咲く山々もどこかゆったりとしています。

古道は再び杉や桧の林のなかへと続き、第3大保木王子社に到着しました。この王子社は大保木字覗にあり、今までの王子社と同じく石の地蔵が木造の祠のなかに祀られています。覗(のぞき)という地名が意味するように、王子社近くの断崖絶壁から百メートル以上眼下に加茂川や千野々・中奥集落のシンボルともいえる赤塗りの鉄橋が見下ろせます。

かつて、この岩から身を乗り出さされて、先輩修験者に首筋をつかまえられ「どうだ!これから親孝行するか!」などと石鎚詣での途中で善なる誓いをたてさせられた場所でもあるのです。愛媛県内はもちろん、瀬戸内海の島々や沿岸の地域では、「石鎚詣で」は男子が大人社会へ入る通過儀礼でもあったといいます。

大保木王子社にはこんな伝説が残されています。昔、松山藩主が領内の山林面河山取り調べの際この山に入り、東之川のお樽の滝を見物。この時、西之川の庄屋である髙須賀蔵人が藩主を歓迎して接待しました。藩主は満悦して蔵人の望みを尋ねてみたところ、石鎚山の成就社には、裏境内が無いので藩主の治める面河山全部の寄進を申し出ました。

すると藩主は驚き、蔵人を殺害しようと大保木の庄屋宅へ召し出しました。しかし、蔵人は事前に事を知り、この王子社に来て抜いた刀を石に突き刺し、石鎚の神に祈りを捧げ、無事にその大望を果たしたそうです。この伝説は、次の第4鞘掛(さやかけ)王子社に繋がり、その王子社は大保木王子社より急斜面を200メートル程下りた地点の大岩の元に石の地蔵として祀られています。この王子社で蔵人は刀を抜き、その鞘を木の枝に掛けたところから「鞘掛」と付けられた訳です。

蔵人は、現在の登山ロープウェイ下谷駅があるところの西之川集落に住んでいたといいますから、第4王子社から第3王子社へと進み、その先の大保木集落にある庄屋宅へ向かったことになります。

第3、第4王子社は、杉や桧、雑木の林のなかにありますが、珍しいかたちの「雪餅草」が数株咲いていました。急斜面を無事に下りきり、千野々のバス停付近で、再び県道12号線と合流します。車だとここまで10分弱・・・、そこを3時間半程かけて歩いてきたことになります。石鎚山に向かって、今までは加茂川の右岸を辿りましたが、これからはルートを左岸の山間にとります。

先程、覗きの行場から見下ろした赤塗りの鉄橋で加茂川を渡り、その近くにある大元神社を参拝しました。こちらの境内にも幟が立てられ春祭が近いことが窺えます。神殿の屋根が銅板で新しく吹き替えられていました。そしてその神殿の彫刻の見事さには驚きました。現在地への創建は、建久年間(1190~)といいますから平安時代末になります。

 

今日の古道行は、ここで終了ですが、中奥集落にある「石鎚ふれあいの里」に立ち寄ってみることにしました。ここは、廃校となった高嶺(たかね)小学校の校舎を利用し、様々な自然体験教室が開かれていて、ケビンなどの宿泊施設もあります。散策道のトレッキングはもちろん、昆虫観察、川魚観察、御茶摘みやコンニャクづくり、野草を食べたり、草木染めをしたりと自然の仕組みを楽しみながら学ぶ教室が盛り沢山です。石鎚山麓の自然を身近に体感できること請け合いです。

第1回目の「石鎚古道をゆく」は、前回と今回の2回に分けてお伝えしたとおり、黒瀬ダムから中奥の石鎚ふれあいの里まで、4つの王子社を巡り歩いてみました。桜満開の時、山里の気持ち良い春風を感じながら辿る古道は、私達スタッフの心を洗濯してくれたような気がしています。そして日常は「考える」ことが先に立ちますが、自然のなかに心身をおくと、先ず「感じる」ことが多いことに気付かされます。 

 次回は、今宮道、黒川道の登山口がある関門まで、2つの王子社を辿ります!
(画像/過年4月9日撮影 文責 事務局長 曽我部英司)

 

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